みやざきけんいちの半生9
稲丘藍子との別れがあったのにも関わらず、私はあまり落ち込んではいなかった。それというのも、ああいう形で答えを出すのに、他に選択肢なんて無かった事、今まである意味自分の時間をほとんど、稲丘藍子につぎ込んでいたので、ずっと西杏子と会えなかった事が心残りであった為、ゆっくり西杏子の話が聞けるという期待感があった。ただ、考えてみれば、稲丘藍子と会っている間に連絡が無かったのも事実。少しの不安を抱えながら、夜に彼女と会う。
久しぶりに会って話したのはなんと寮の前の道路。時間が遅いので、あまり人気は無いのにも関わらず大胆な行動。話は他愛の無い会話から始まったが、話が進むにつれて彼女は、ある事を話し出した。
最近私に連絡を取らなかった事、相談もしなかった事、理由は確かにあった。在る人が私との連絡を取らないように、そしてベラベラ私にいろんな話をしないようにと、彼女は片想いのカレに言われていたらしい。彼女は忠実に数ヶ月の間、それを守ってきたのであった。それを聞いて、馬鹿らしいと思いつつ、裏返せば、彼女と私の関係というのが、カレにしてみれば、友人とは言え、なんでも話せる存在だと認識しているという事に、ある種の満足感はあった。だが、立場は相変わらず相談役であり、それ以上にはなれないのはわかっていたのだが・・・。
ある時、会社で建築部の女性と雑談をしているとある話題が持ち上がった。それは、近くにラブホテルが新築オープンすると新聞に出ていて、どんな所か1度見に行きたいという話になったのだ。そんな話に乗るのが私で、2人の女性の話に2つ返事でOKをし、帰りにそのホテルに行こうという話になった。勿論お目当ての西杏子と、あと宮元さんの3人で、ホテルへ行く前にケンタッキーフライドチキンを買い、ほとんどピクニック状態で、ホテルに入るのであった。
ホテルは真新しい事くらいで、ごく普通のラブホテル。雑談を1時間半ほどして体験コースは終了した。
帰りは、何故か西杏子は別行動になっていた為、宮元さんと2人で会社の駐車場へ向かった。運転中、今まであまりプライベートに触れた事の無かった彼女へいろいろ質問をしてみた。重いながらも少しずつ口を開く彼女。その中で、以前に噂で聞いていた彼女の好きな人について、鎌をかけてみた。すると簡単に否定するかと思ったら、急に黙りこんでしまい、暫くして彼女は泣き始めたのだった。その涙は、今まで自分の気持ちを他の人へあまり言わない彼女の張り詰めた気持ちが切れ、想いが涙となって止まらなくなったようだった。彼女は約1時間もの間、ほとんど話す事は無く、ずっと泣きながら私の話を聞きながら、自分の気持ちを確認しているかのようだった。
私はこの頃から人の話を聞くのが苦じゃなくなってきた時期なのかもしれない。
結局、彼女の恋は淡いままで終わるのであるが・・・。
続く
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