車に乗った女性の内、自分の心が揺れたのは西杏子でした。容姿とかより、気軽に話せるのが、自分には何より魅力で、その日1日彼女を目で追いかけていたと思います。ただ、話をするのも殆ど無い状態で、私と同僚の乗った車は、帰りも新人2人を乗せ、殆ど会話の無い状態で帰ったのでした。
その後は、自分も寮から近くの現場を任される事になり、本社への行き来も多くなり、彼女達との接点も多くなってきました。気持ちは少しずつ西杏子に惹かれて行ってるのは自分でもわかりました。
ある時、私は本社で仕事をしていると、定時になり、工事課の西杏子はすぐに帰り支度をすると、工事課を出て行きました。私はちょうどその時2階の会議室で仕事をしていると、他の女性陣が2階の部屋へやってきました。その時にあった出来事は・・・。私をみんなで奪い合いを始め、私が必死に止めて・・・、なんて話になればいいのですが、実際には、西杏子が会社を出て行くのを上から見ながら、彼女の話をし始めました。その内容は、工事課での彼女の態度、男に対する接し方などをほとんど批判に近い話を、総務の女性と工事課の女性が集まって、私の前で話しているのです。私に対しても同意を求めるようにしてきたのですが、私はうなずくばかりで、それ以上の事は言えませんでした。きっと、彼女達は、私が彼女よりだという事をある程度分かっていながら、あえて私の前で話していたのかもしれません。確かに私の知らない彼女像を知る事になり、彼女が私以外の男性を好きだという事も、その時、はっきりわかり、正直言うと半分どうしようかなという気持ちにもなりましたが、人から聞いただけで嫌いになれるわけも無く、私が彼氏になれる可能性が消えたにしても、私は彼女の味方で居ようとその時思ったのです。
それからの私は、彼女と会話にしても、普通に接し、彼女にとって負担にならないように、良い友達、良き相談相手であろうとしてきました。彼女も、少しずつ私に悩みを相談してきて、時には、空いた時間に喫茶店で待ち合わせをして、ずっと彼女の話を聞いていました。私は、彼女と居る時がホッとしていたし、例え、話の内容が好きな男性の事であっても、絶対嫌な顔をせずに、彼女が胸の痞えが取れるまで、ずっと聞いていました。
ただ、好きな気持ちは抑えきれずに、ある時、話している時に、思わず彼女に好きな事を打ち明けました。彼女は動じず、というより分かっていたのでしょうけど、その気持ちを分かっても関係が崩れる事はありませんでした。きっと、今の関係の方が彼女にとって安らぐのだろうし、私の事は異性というより弟みたいな存在になってしまい、異性への意識が無かったのかもしれません。彼女はそんな状態でも1度だけ、私の気持ちに答え、キスをした事がありました。実はそれが彼女とはどこかで繋がっていたいという気持ちになってしまい、ずっと引きずってしまうのですが・・・。
実はこういう中で、他の人とデートに行った事がありました。相手は蔵元直実。1月3日だったと思います。私は年末年始に実家へ帰らずに奈良のほうへ居たので、寮で毎日に暇な毎日を過ごしていたのですが、それを見かねた彼女が、一緒にデートに行ってくれるという事で、朝から映画に行く事になりました。それも3人で。実は後輩の小楠(実名)も寮に残っており、3人という条件で行く事になっていました。本当にデートというよりは、3人で映画を見たというだけの素っ気無いデートで、昼過ぎには解散というものでした。その時、彼女とは会話の内容を探すのも大変だし、きっと合わないな~と思ったときでもありました。
西杏子をずっと追いかけていた毎日がまるっきり変わる事が起きました。
ある日曜日、私は彼女とデートしたくて、朝から色々な事をイメージし、寮の電話は回りにばれてしまうと思って、近くの本屋の公衆電話まで行き、そこから西杏子へ電話をしました。11時くらいだったと思います。電話を掛けると彼女が居て、普通にデートの話を切り出しました。が、彼女は用事があるといい、結局断られてしまいました。今日1日を彼女との時間にしようと決めていた私は愕然とし、この空いた時間をどうしようと思っていたのですが、暫く公衆電話の前で考え込み、1週間前にあった出来事を思い出していました。
それはこういう事でした・・・。
その頃、仕事をしていた現場のすぐ近くに金物屋があり、そこの敷地を借りて現場事務所として利用していました。当然その金物屋には仕事上の金物とかを購入しに行ってた訳ですが、その店に1人だけ若い女性が居ました。稲丘藍子。歳はその時まだ19歳。入って間もない子で、実際話す機会は殆ど無かったのですが、他の女性と会話しているのも見ていて、時にその会話に対して笑ったりしていました。たまに彼女が会社の外を歩いていたりしていた時に、声を掛けて、会釈程度に『今度遊びに行きましょうね。』と言ったりしていました。1週間前に、たまたま外でまた逢って、会釈をすると、いきなり彼女が、
『そういえば、あれから誘ってくれませんね。』
と切り出され、たじたじになった場面があったのです。
それを思い出し、彼女の家に電話を掛けました。
彼女が電話に出て、すぐに私と分かったようです。自分の中では、まぁ無理だろうけど、言うだけ言ってみるかという感じだったので、気軽に、
『この前、誘ってくれないって言われたんで、掛けてみました。遊園地にでも行きますか?』
と言ってみると、『はい。』の返事が。
あれ?昼前でこれから段取りしてたら、時間無いんじゃないの?と思いながら、すぐに迎えに来ていいというので、彼女の家の近くへ迎えに行き、そのまま遊園地へ行きました。夜まで遊んだ後、居酒屋で晩御飯を食べる事にしました。私は車なので、アルコールは飲みませんでしたが、彼女に勧めると自分で日本酒を頼み、弱い弱いと言いながら、彼女は結局4合飲んでしまいました。当然酔っ払い、帰りの車の中では寝てしまい、帰りたくても家が分からない状態で、彼女を起こそうとしても起きる気配が無く、意識はあるけれど、起きる気が無い。そんな状態で、私は彼女を起こすつもりで、いろんな言葉で起こそうとするけれど、起きない彼女に、
『起きないとキスするからね。早く起きなさい。』
と言うと、彼女は
『していいよー。』
と言って寝てる状態。私はずっとそう言って起きるのを待っていましたが、それでも起きずに居る彼女を最後は、とうとうキスをしてしまいました。すると彼女は起きて、ようやく家の場所を教えてくれるのでした。
次の日。私は彼女にどういう顔であっていいかわかりませんでした。あのキスの意味はなんなのか?飲んだ勢いか?それともそうなりたかったのか?分からない事ばかりで、もし、本当に意識が無いままでしてしまったのなら、謝らなければと思えば思うほど、逢いづらくなり、その日は逢わずに過ぎてしまいました。
火曜日。彼女と外ですれ違いました。その時、
『この前はごめんね。』と咄嗟に謝ると、彼女は、
『え?なにがですか?』と言われ、拍子抜けしてしまい。
『キスしたことですよ・・・。』と言うと、
『あ~~。はい~。』というだけで何も気にしてない様子であった。
付き合ったことの無い私にとって、このリアクションをどう取ればいいかわからなかったし、なにより自分の気持ちがどうなのかもわからないまま、稲丘藍子との事も平行して続いていくのであった・・・。
続く
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